底地の基礎知識 - 底地の相続における課題
相続税の減額要因にならない
不動産を相続する場合、相続税額は財産評価基準で土地を評価した額より算出されます。これにより算出された額を相続税として原則現金で支払います。
しかし、底地の実勢価格は財産評価基準で算出した額を大きく下回ります。というのも底地は扱いが難しく、借地人との関係もあり換金するのが容易ではないからです。
つまり、実際の価格よりずいぶんと多い額が課税対象となってしまうことになります。
また、前述のとおり相続税は現金納付が原則です。しかし、やすやすと一括で納税できる相続者は少ないのではないでしょうか。その場合はやむなく売却し、納税することになるでしょう。
底地の相続にはいろいろな問題がかかわってくるのです。
①相続税計算時の問題点
相続時に高く評価され、物納も困難。
底地は、相続税の際に高く評価されてしまい、物納も難しい。
- <相続時の評価>
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底地は収益性が低いうえに、売却も難しく、その結果実際の資産価値は低くなってしまいます。しかし、底地の評価方法にて説明しましたが、相続税や贈与税評価は、財産評価基準で土地を評価し税額を算出します。
つまり、底地は実際の資産価値が低いにもかかわらず、それよりもはるかに高い評価をされてしまい、結果、多額の相続税が課税されてしまいます。そもそも底地の収益性は低いのにもかかわらず、相続の際は多額の税金を納めることとなり、勘定が合いません。
②相続税納付時の問題点
相続税は現金一括納付が原則です。
しかし例外として、一括で現金が用意できない人のための救済措置があります。それが「延納」や「物納」という納税方法です。
- 延納
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分割払いで相続税を支払う方法です。延納をするためには、以下の条件を満たす必要があります。
- ・納める相続税額が10万円を超えること
- ・納税期限までに現金納付が困難であるという正当な理由があること
- ・納税期限までに延納申請書を提出すること
- ・担保提供できること
- 物納
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物納とは、金銭でなく、物で相続税を納付する方法です。現金一括納付や延納による納付が困難な場合に限り、「物納」が認められます。
ただし、底地の分納には条件があり、またその審査基準は年々厳しくなってきているそうです。実際、底地の物納は難しいと考えた方がよいでしょう。
物納できない底地とは?
以下の条件に当てはまる底地は物納が認められませんが、該当していたとしても調査や整備をすることで物納できる可能性があります。
- <底地、建物そのものに存在している問題点>
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- ・契約書上の面積、登記簿上の面積と実測上の面積が一致していない。または、不明確である
- ・境界が不明確である
- ・隣接地から建物が越境している。または、隣接地に建物が越境している
- ・建築基準法上の道路に接していない。または接道がない
- ・底地の形状が極端に悪い(崖地・極端な狭小地・極端な不整形地)
- ・底地に土壌汚染があることが明確である
- ・借地上の建物が違法建築である
- <契約上、借地人との問題点>
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- ・抵当権などの担保権が設定されている
- ・地代が供託されている。または、地代の滞納がある
- ・借地人と法的紛争がある
- ・借地人が不明確である
- ・借地契約の契約内容が地主に著しく不利な契約内容である
- ・地代が近隣の相場と比べて著しく低い
- ・共有不動産である(但し、共有者全員が持分の全部を物納する場合は可能)
このように底地の売却や物納は難しく、相続を考える際はその方法を十分に検討する必要があります。
また、相続税の納付期限は相続の発生から10ヶ月以内とされています。
10ヶ月といえばそれなりの期間に思えるかもしれませんが、被相続人が亡くなってからしばらくは相続どころではないでしょう。それに加えて、前述のとおり底地の売却は難しく期限内に換金させるとなると容易ではありません。
では物納は?となりますが、こちらはさらに厳しくなります。事前の調査や整備を行っていない底地の物納は不可能に近く、また、すぐに実施できることでもないからです。
結果として、相続税のために底地以外に相続した優良な不動産を売却したり物納したりすることとなり、底地のように資産価値が低く使い勝手も悪い資産だけが残ってしまった、ということにもなりかねません。
平成18年度の税制改正
物納する場合は、国が定めたいくつかの厳しい要件を満たしていなければなりません。それには詳細な要件の整備が必要となり、時間や費用がかかります。
さらに、平成18年度の税制改正によって、物納制度が大きく変わりました。改正前までは物納の審査期間について期限が定められておらず、また国側の対応にも時間がかかっていたので、「一旦物納申請を出してしまえば時間が稼げる」といった通説もありました。しかし、先述の税制改正によってそれも通用しなくなってしまったのです。
改正前は、物納申請から承認(もしくは却下)まで、長いときには10年かかることもありました。
しかし、新制度では「物納申請の審査期間は物納申請期限から3ヶ月」と規定されており、その期間内に物納準備を終えていなければ却下されてしまうようになったのです。
また、準備不足による申請期間延長は最長で1年間、さらに物納申請を却下された場合の再申請は20日以内(1回限り)と期限が定められています。
つまり、相続税を物納により収納するには、事前の相続設計による所有財産の適切な整備と、物納に対する十分な事前準備が必要不可欠なのです。
物納申請期限を過ぎてしまうと、実際の収納完了までの期間に応じ、利子税がかかるようになりました。その負担を抑えるためにも、事前に要件整備を行い、迅速に納税を完了できるようにしておくことです。
底地は相続準備が必要不可欠
このように、底地を相続する可能性がある場合は、十分な事前準備が非常に重要です。
方法は大きく分けて以下の2つです。
- ①売却し、現金化する
- ②物納が認められるように準備する(物納適格要件を満たす)
繰り返しますが、相続発生から10ケ月以内に底地を売却したり、物納適格要件を満たすことはかなりの困難となります。つまり、事前に対策を講じておくことが大切なのです。
売却と物納、どちらを選ぶかの判断基準は明快です。物納時の収納価格(引き取ってもらえる価格)と売却価格を比較し、より評価の高い方を選べばよいのです。
しかしこれはあくまで両方の手段が選べる場合であり、そのケースはほとんどないのも実情です。
多くの底地は相続前に売却している
近年の不動産流通価格の上昇トレンドにより、相続税の評価額よりも売却価格の方が高くなることが多く見受けられます。よって、現状ではほとんどの方が物納よりも売却を選んでいます。
その状況を鑑み、「誰に」、「いくらで」、「いつまでに」売却するか、早めに検討されたほうがよいでしょう。相続を受ける側の資産形成にも影響することなので、場当たり的ではなく将来を見据えた、しっかりと前向きな対策を立てましょう。