今回は、老朽化によってひび割れが表面化した築古ビルの売却事例をご紹介します。

□テナントが埋まらない…

＊ご相談者様の状況

ご相談者様：60代男性
ご家族：奥様との2人暮らしをされています。
ご相談内容：
今回は「外観の劣化によってテナントが埋まらない築古ビル」についてのご相談です。

ご相談者様が相続されたのは、ご親族から代々受け継がれてきた商業ビルです。
ご相続当初は複数のテナントが入居していましたが、年々入居率が低くなっていました。
その理由に、「外観の劣化・老朽化」が挙げられます。

なぜならご相談者様のビルは、外壁の「ひび割れ」が表面化していた物件だったのです。
ご相続されたのが築10年、それから30年経営され、現在は築45年が経過していました。
ビルの老朽化が進み、年々地震の被害により、ひび割れは広がっていきました。

テナントからも「なんとかして欲しい」という要望がありましたが、ご相談者様は今後もビルを所有し経営を続けるか、売却するか迷いはじめたこともあり、対応しかねていました。

売却を決意したご相談者様は、まず初めに、ご相談者様のお父様がお世話になっていた不動産会社に売却先を探してもらったそうです。
しかし、築年数の古さから、なかなか買い主を見つけることができなかったそうです。
3ヶ月待っても問い合わせが1件もなかったため、ご相談者様は再度不動産会社に相談に行かれましたが、売却金額の引き下げを提案されるだけでした。

ご相談者様は何とか一刻も早く売却する方法は無いかと、改修工事やリノベーションも検討されたそうですが、資金の調達が付かなかったことで、断念されました。
確かに、改修工事やリノベーションで売却価格が上がる場合もありますが、立地や建物の状態が大きく影響するため、全ての物件に当てはまる訳ではありません。

また、リノベーションをして経営を続けていても、結局テナントが埋まらなければ、利益が上がらず、リフォームにかけた費用が何年経っても回収できない傾向にあります。

買い主探しがあまりにも長期化すると、入居者さんに影響が及んでしまう可能性があります。

□売却が長期化するリスク

日本においては民法第606条で、賃貸人である大家が「賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」ことが定められています。

修繕義務を放置した結果、所有ビルから生じた事故によって、人や動物、不動産に被害が及んだ場合、所有者である大家は損害賠償責任を負う可能性が高いです。

例えば、看板や外壁タイルなどの「落下事故」などがそうです。
札幌では30年前に、金属製の看板が15m下の歩道に落ち、直撃を受けた女性が意識不明の重体となった事故が発生しています。
外壁タイル1枚、ボルト1本などの小片でも、高所から落下すれば強力な凶器となります。
この場合の賠償責任は「無過失責任」となり、大家さんに非がなくても免れません。

また、業務上過失致死傷罪などの刑事罰が科される可能性や、安全対策を軽視したことによる信頼の毀損、事故物件とされ資産価値が下がる、など副次的な影響を受けることもあります。